ESJ56 企画集会 T22-2
中西 弘樹(長崎大学・教育)
本集会は「日本国内に分布する熱帯性植物群落を探る」を目的としているが、これは日本における亜熱帯をどう考えるか、あるいは日本の亜熱帯の北限はどこかということと関係がある。日本の亜熱帯の北限についてはこれまでさまざまな提案がなされてきたが、それらの違いは代表的ないくつかの亜熱帯性植物(亜熱帯の指標植物)、亜熱帯と温帯とのフロラの滝、極相林の植生単位、群系など基準が異なるためである。本講演では、日本まで拡がっている熱帯・亜熱帯性の海岸植物のフロラと植生について紹介し、亜熱帯とその北限を考えてみたい。
1.海岸植生の分布・・・琉球列島では隆起珊瑚礁上に発達した植生、熱帯性海浜植生、マングローブ植生において、琉球列島の北部に行くほど熱帯性のものが減少する傾向があるが、熱帯域と共通である。しかし、日本本土ではそれらは見られない。
2.海浜植生の構造・・・海浜植生は汀線から内陸に向かって明瞭なゾーネーションが発達している。この構造を琉球列島と日本本土で比較すると、明瞭な違いがある。それは琉球列島では複雑な構造をしていることである。
3.海岸植物の分布・・・熱帯・亜熱帯性の海岸植物の分布を見ると、日本本土まで分布を拡げているものが少なくない。
a.海流散布植物・・・日本本土まで分布を拡げている熱帯・亜熱帯性植物の多くは、果実や種子が海流で散布される海流散布植物であることである。これは世界の二大暖流である黒潮が日本列島太平洋側の南部沖を流れていることによるものである。この中には地球温暖化に伴って北上している植物も見られる。
b.島嶼偏在植物・・・その他の日本本土まで分布を拡げている植物は、島嶼部に偏って分布する攪乱依存種である。これは台風による影響が強く働いているものと考えられる。