ESJ56 企画集会 T23-4
山北剛久(千葉大・理)
野外における生物の動態の研究は、従来、小規模な操作実験や異なる地域の比較による自然実験が中心であったが、近年、メタ個体群や連続空間などの相互に影響しあう景観を対象にした研究が増加している。対象が面的に広がることで、空間パターンを考慮することが重要な課題となる一方、衛星画像やGISデータ、環境アセスメントなど公的調査データの公開が進められ、大規模な野外研究のネットワークやメタデータベースの整備も計画されつつある。既存の面的データが利用できる場合には、自己相関は単なる厄介な問題ではなく、むしろ、詳細な調査計画を立てる上で目的とするプロセスの働くスケールの予測や、場合によってはプロセス自体の解明にも利用することもできる。
演者らは、アマモ場の変動を捉えるためにどの空間スケールで調査を行ったらよいかを判断する手段として、空中写真から抽出したアマモの変動が自己相関する範囲を明らかにした。データセットはおよそ2kmに渡るアマモ場全体を200m四方で区切った広域データ、5m四方の解像度で400m四方の4つの調査区を切り出した局所データの2つのスケールを用意し、それぞれの時系列変化に対してMoran's I コレログラム、バリオグラム等を用いて、年変動が空間的に同調する距離を抽出した。その結果、広域データではおよそ400m四方の範囲で、局所データでは25〜50m四方の範囲で同調が見られた。また、地形、アマモの分布などの環境要因と年変化との関係を空間分布を考慮して解析した結果、広域でのアマモの減少は地形的要因が関係していること、局所ではパッチの周辺で変化が生じていることが明らかとなった。アマモの変動を調査するには地形的に均質なおよそ400mの範囲の中で、パッチの構造を考慮して25-50m以上の間隔を開けてサンプリングすることが望ましいとの結論が得られた。