ESJ56 企画集会 T26-5
工藤 忠(日本チョウ類保全協会)
1. 湿原環境の変遷による減少例
八甲田山田代湿原は、平成9年に十和田八幡平国立公園の特別保護区として管理されるようになって以来、人為的な環境改変が行なわれる心配はなくなった。しかしながら、湿原環境の変遷が進行しているために産卵植物であるナガボノシロワレモコウの減退が目立ち、ゴマシジミの減少が著しい。
なお、特別保護区周辺には人手の加わった草原が点在し、それらのいくつかは人為環境でありながら湿原内よりも好適なゴマシジミ生息地となっている。
2.風力発電による減少例
津軽半島北端の竜飛岬は「風の岬」といわれるほど風が強く、平成8年、生息地の尾根筋に風力発電のための巨大風車が新設された。新設当初は周辺環境が改変されなかったために生息地への影響がないように思われたが、設置後十数年の間に周辺植生がゆっくりと変化。風車によって生息地の微気候が変化したのか否かは定かでないが、周辺に自生していた多数のナガボノシロワレモコウは見当たらなくなってしまった。
3.原子力発電設置がもたらした保全例
下北半島東岸は東北地方最大級のゴマシジミ生息域として知られていたが、現在は原子力発電の事業実施区域として有刺鉄線が張り巡らされ、一般の立ち入りを厳しく禁じている。このため生息地の存亡を懸念する声もあるが、実際は青森県自然環境保全審議会(現在は青森県環境審議会に改称)が電力会社に対して、事業実施区域におけるゴマシジミ生息地の保全を提唱。世界遺産となった白神山地にはコアゾーンやバッファーゾーンが設置されているが、これらに相応する地域を設けて生息状態の保全につとめるという覚書がかわされている。