ESJ56 企画集会 T29-2
湯本貴和(総合地球環境学研究所)
里山に人間が求める生態系サービスは時代を通じてつねに一定のものではなく、歴史的に大きく変わってきた。北東北の縄文遺跡における環境復元から、森林の自然な撹乱と更新では考えにくいクリ林が卓越する場所があり、縄文里山(辻、1999)と呼べるような自然の改変があったことがわかってきた。水田稲作が普及したのちは、里山は「農用林」として利用され、近世のかなり集約的な水田経営の例であるが、農家の炊事や暖房のための薪材としては村の面積の2〜3倍、刈敷(肥料)としての柴の需要は田畑の10〜12倍の雑木林が必要であったと算定されている(所 1980)。建材や道具材として、竹をふくむ多様性の雑木林は、それぞれの樹種の材特性によって適材適所で用いられ、種多様性の高い森林を維持する必要があった。生態系サービスのうち、供給サービスや制御サービスでは、生物多様性の高さがそのまま生態系サービスの質の高さに直結するものではない。しかし、文化サービスの多くは生物多様性によって支えられている。さらに生物多様性は、安心安全な社会への指標的な価値としてモニタリングが可能で、ある環境政策の結果を評価するための利用することができる。今後里山の管理にとっては、わたしたちが里山に求める生態系サービスを正確に把握し、その状況と変化をモニタリングするために生物多様性を使った指標を活用すべきであると考えている。