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ESJ56 企画集会 T29-3

生物・文化の多様性とバイオマス資源の持続的利用

高橋佳孝(近畿中国四国農業研究センター)


草原は里山の重要な構成要素であり,雑木林や水田と同様にふるさとの原風景である。里山の草原環境は,燃料や屋根葺きの材料,牛馬の飼料,肥料を提供し,農業や人々の生活と昔から有機的につながってきた。温暖で雨の多い草資源大国日本だからこそ,利用時期や強度・頻度を見誤らなければ,持続的な草の利用が可能であった。このような営みは,寒冷な古い時代からの生物相を育んできたし,今後の温暖化対策のヒントを提供してくれるかも知れない。しかし,人間による干渉がなくなれば「持続的に利用可能な自然」は失われ,地域の生物相や文化もやがては消えていく。資源採取にとどまらず,今では草原環境がもたらす生態系サービスは文化的・調整的機能を含めて極めて多岐にわたる。それらのサービスを持続させるには,草原の保全を地域再生や経済活性化につなげられるかが鍵になる。草原環境の保全管理を草本バイオマス利用と連携すれば,1)生物多様性保全への貢献,2)湿地や水系の富栄養化の抑制,3)マテリアルやエネルギー原料の持続的な供給,4)管理労力・コストの低減,5)再生・保全の社会的合意,6)バイオマスの地産地消の実現,7)温暖化の緩和など,多彩なサービスが生みだされる。生物多様性基本法が成立し,野生生物のにぎわいへの関心も高くなってきた昨今,コウノトリや草原の草花などのシンボルを組み込んだ環境保全的農業への関心も芽生えてきた。地域の環境と経済の持続性を高めるためには,このような自然環境の保全と矛盾しない健全な第一次産業を育成し,都市と農村の協働を図りつつ,第二次産業,第三次産業との連携を強化する六次産業化(1×2×3=6)を実現する必要があろう。それでも経済的に成り立たないならば,広く国民の理解を得ながら,環境支払いの導入も検討する価値がある。


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