ESJ57 一般講演(口頭発表) C2-06
石原正恵(自然研)
人間活動や気候変動による生物多様性の減少が危惧されており、種多様性が維持される機構を明らかにすることが重要である。森林における樹木の種多様性の維持機構として、遷移ニッチ説が提唱されてきた。種間で成長速度と生存率の間にトレードオフ関係があるため、森林内において光などの環境条件がよい場所では、成長が速く短命で死亡率の高い種(遷移初期的な種)が、成長が遅く死亡率の低い種(遷移後期的な種)より優占する。一方、環境条件の悪い場所では、遷移後期的な種が優占する。これに対し、近年、種多様性の維持機構として統合中立説が提唱された。この説では、死亡率や出生率などの種間差は種多様性の維持にとって重要ではなく、種は同等と見なせると考える。これらの説の相対的重要度を、熱帯以外の気候帯の森林において検討した研究は少ない。
本研究は、亜寒帯から亜熱帯の森林において、遷移ニッチ説の妥当性と統合中立説の仮定の妥当性を検討する。北海道から沖縄までの18箇所の天然生林における2〜5年間の毎木調査データを用いて、死亡率と幹直径の成長速度を樹種ごとに求めた。もし、遷移ニッチ説が重要ならば、森林内の樹種間で死亡率や成長速度に変異が見られ、死亡率と成長速度との間に正の相関が見られるはずである。さらに、種多様性の高い森林ほど、死亡率や成長速度の種間変異が大きいと予想される。逆に、死亡率と成長速度の種間変異が小さければ、遷移ニッチ説は支持されず、種の同等性という統合中立説の仮定が妥当だと考えられる。発表ではこれらの予測の検証結果を示し、遷移ニッチ説の重要度と撹乱履歴との関係も検討する。
なお、本研究のデータは環境省・モニタリングサイト1000プロジェクトの森林・草原調査コアサイトより提供いただいた。