ESJ57 一般講演(口頭発表) F1-08
*泉団,吉川正人(東京農工大・農)
栃木県箒川中流部では、周辺耕作地の病害虫対策として、毎年2月にオギが繁茂した河川敷への火入れが行われている。これまでの調査で、火入れがおこなわれたオギ草原では、火入れされない場所に比べて出現種が相当に入れ替わり(jacardの共通係数0.4)、林床生の春植物が多く出現するなど特異な植物相をもつことが明らかになっている。火入れによって小型の林床生春植物の生育が可能になるのは、オギの枯死稈やリターの焼失により、春季の光環境が良好になるためではないかと考えた。これを確認するために、4月上旬から7月上旬にかけて火入れ区と非火入れ区の光環境の比較、および火入れ区内での春植物(レンプクソウ、ヒメニラ、キクザキイチゲ)のフェノロジー調査を行った。
光環境の調査は約10日ごとにその間の積算日射量を高さ5cmから160cmまでの8段階で測定し、群落最上部の自然日射量に対する相対値を算出した。4月中は高さ80cm以下では火入れ区はほとんど被陰を受けておらず、非火入れ区との日射量の差が大きかったが、その差は5月下旬頃にはほとんどなくなった。
フェノロジーの調査は約10日ごとにパッチ単位で展葉期間および開花、結実の時期を調査した。レンプクソウは、4月上〜中旬に開花個体、4月下旬〜5月下旬にかけて結実個体がみられた。また、5月に入ると葉が枯れるシュートがではじめ、5月下旬までにほとんどの地上部が消失した。キクザキイチゲもこれに類似したフェノロジーを示し、ヒメニラはより早い5月上旬の段階で消失した。
この結果、(1)火入れ区では非火入れ区に比べ、4月の地表面近くの相対積算日射量が大きいこと、(2)3種の春植物は、火入れ区で相対積算日射量が大きい4月に展葉期の中心があることがわかった。したがって、2月の火入れはオギ草原における春植物の生育にとって,光環境のうえで有利に働いていることが明らかであった。