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ESJ57 一般講演(口頭発表) G2-05

食物連鎖に沿ったCN安定同位体分別係数はどのように決まっているか:アミノ酸代 謝モデルからの考察

*石井励一郎(JAMSTEC),相田真希(JAMSTEC),小川奈々子(JAMSTEC),高津文人(国環研),山田佳裕(香川大・農),兵藤不二夫(岡山大・RCIS),和田英太郎(JAMSTEC)


北太平洋、バイカル湖、琵琶湖、モンゴル草原、ボルネオ熱帯林など多様な生態系を対象に、生食連鎖の一次生産者から高次捕食者までを含む炭素-窒素同位体マップ(C/Nマップ)の相互比較をおこない以下の結果を得た:

1) 各系とも系内に多く存在する生物はC/Nマップ上でおよそ直線に乗る。

2) 1)の直線の傾きDd15N/Dd13Cは系間で大きく異なる。

これらは各栄養段階間のバルクでの捕食・被食作用だけでは説明ができない。栄養段階を通じて一定のDd15N/Dd13Cを与える同位体効果をもたらすメカニズムとして、我々は2次消費者(TL3)以上の生物もその炭素・窒素代謝が1次生産者(TL1)の特性に制約を受けている可能性に着目し、生物体を作るタンパク質合成過程に関して以下のような仮説を立てた。

[仮説] TL3以上の生物のアミノ酸代謝も、TL1由来の必須物質により制約される。そのため系内では一定のC/N同位体分別効果が働き、系固有のDd15N/Dd13Cの傾きとして現れる。このような必須物質としては、主要アミノ酸代謝過程に関与する酵素(例:グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)の活性を制御する重金属や、従属栄養生物の必須アミノ酸などが考えられる。

簡単な同位体分別モデルによる検討から、これら必須物質の制限下では、各摂取アミノ酸の生物体内のタンパク合成と分解・排出への経路が変化し、それに応じてDd15N/Dd13Cも変化しうることが示唆された。

このことはC/N同位体分析が系内の食物網構造解析だけでなく、系間の食物連鎖特性の比較や、各系の生物種の適応の歴史を反映した健全性の指標を与える可能性を示すものである。


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