ESJ57 一般講演(口頭発表) G2-09
*潮雅之(京大・生態研センター), 北山兼弘(京大・農)
縮合タンニンは、植物の生産する主要な二次代謝産物であり、土壌有機物の分解過程を担う細胞外酵素と複合体を形成する、土壌微生物への毒性を持つ、という生化学的特徴を有するため、微生物群集の組成、機能、有機物分解過程に大きな影響を与える。しかし、縮合タンニンの土壌微生物群集、分解過程への影響が直接的に、かつ野外において検証された事例はほとんどない。
そこで本研究ではボルネオ島、キナバル山熱帯山地林において、野外、実験室の両方の条件下における短期間の縮合タンニン添加実験により、縮合タンニンの土壌微生物群集、酵素活性、有機物無機化過程への影響を検証した。本調査地は針広混交林で、マキ科針葉樹Dacrydium gracilisやブナ科広葉樹Lithocarpus clementianusなどが優占する。先行研究によって、生葉の縮合タンニン濃度が比較的高いDacrydiumの樹冠下土壌では、Lithocarpusの樹冠下土壌に比べて縮合タンニン濃度、真菌細菌比が高く、C、N無機化速度が低いことが明らかになっている。縮合タンニンはDacrydiumの生葉から抽出し、もともとの微生物群集組成と活性の違いによるタンニン添加への応答性の違いを調べるためDacrydiumとLithocarpusの樹冠下土壌両方に添加した。室内実験においてタンニン添加区では蒸留水添加区より真菌細菌比が高かった。また、土壌呼吸速度、いくつかの分解酵素活性がタンニン添加区で蒸留水添加区より有意に低く、この傾向は実験室内、野外実験のいずれかで確認された。N無機化速度はLithocarpus土壌でのみタンニン添加区で蒸留水添加区よりも低かった。以上の結果より、Dacrydiumの生葉中に高い濃度で含まれる縮合タンニンが樹冠下土壌において微生物群集、有機物無機化過程に影響を与える一因であることが示唆された。