ESJ57 一般講演(口頭発表) H2-03
*小林弘幸,小池文人(横浜国大・院・環境情報)
アカボシゴマダラ(Hestina assimilis)はチョウ目・タテハチョウ科に属し,ベトナム北部から中国,台湾,朝鮮半島,南西諸島に分布するが,1998年に神奈川県で発見,定着が確認されて以降,毎年分布を拡大している.自然への影響として,地域のチョウ相が変化するほか,在来チョウへの生態学的競合の影響や,近縁在来種であるゴマダラチョウとの遺伝的な交雑の影響が危惧されている.本研究では,統計的な手法を用いてアカボシゴマダラの分布拡大予測モデルを作成して分布拡大予測を行い,将来の自然への影響の地理的な拡大を予測した.
食草であるエノキの分布予測では3次メッシュ(約1km)内のライントランセクトで発見されたエノキ個体数を密度指標とし,土地利用,平均標高から予測する回帰式を作成した.菅井氏 (2008など)が取りまとめたアカボシゴマダラの分布情報を用いて,ハビタット好適度をエノキ密度指標のロジスティック関数とし,指数関数の分布拡大カーネルとの積としてモデル化してパラメーターを決定した(Fukasawa et al. 2009).
過去の分布データからのモデル選択によると,空間的な分布拡大とエノキ密度はともに重要であることが明らかになった.拡大の様子を予測したシミュレーションによると,アカボシゴマダラは30年後までには関東平野部全域に拡大することが分かった.また,西方向(丹沢山地)への広がり方が弱いと言う現在までの傾向も再現できた.モデルにおけるこの挙動は,民家が散在する丘陵地などでエノキ密度が高く,まとまった森林や中心市街地には少ないことに対応している,将来的に関東平野から全国に分布拡大する場合には,関東地方から西方向(南アルプス方面の森林)へは直線的には拡大せず,海岸線沿いや谷沿いの民家が散在する地域を通って分布を広げていくことが予想される.