ESJ57 一般講演(口頭発表) H2-05
五箇公一(国立環境研)
人間活動による生物の生息地の破壊や生物の人為的移送は、宿主−寄生生物間における共進化の歴史を崩壊させ、寄生生物の感染爆発をもたらす。寄生生物の多様性および宿主との共進化の歴史を知ることは、寄生生物との共生関係を維持する上でも重要な知見となる。我々は、これまで輸入昆虫セイヨウオオマルハナバチや外国産クワガタムシに寄生するダニを材料として、生物の人為移送がもたらす共進化系崩壊のリスクについて論じてきた。今回はさらにデータを追加して、これら寄生ダニのルーツについて検討を重ねた。その結果、マルハナバチに寄生するマルハナバチポリプダニの起源となる地域と、宿主マルハナバチの起源となる地域は地理的に異なっており、マルハナバチが種分化し、分布を拡大する過程で、異なる宿主生物からマルハナバチにHost-Switchしたダニがマルハナバチポリプダニに進化したという説が立てられた。このように宿主−寄生生物間の関係の歴史を辿ることで、生物移送のリスクを寄生生物の持ち込みという観点から評価することが可能となる。例えば、近年、世界的に問題となっている両生類の病原微生物・カエルツボカビについても、Host-Parasiteの共進化系を再構築することによって、なぜ中南米やオセアニアで感染爆発を起こしたのか、そのメカニズムを解明できると同時に、将来のリスク予測にも結びつけることができると期待される。2010年10月における生物多様性条約第10回締約国会議COP10の名古屋での開催を控えて、様々な生物多様性保全策が議題として提案される中、寄生生物やmicro-organismsの多様性(とその撹乱のリスク)に注目する人は少ない。本講演では、具体的データに基づいて、寄生生物の多様性保全の意義について議論する。