ESJ57 一般講演(口頭発表) H2-06
*長谷川功(さけますセンター),山崎千登勢(北大・環境科学),太田民久(北大・苫小牧研究林)
競争や捕食―被食といった種間関係の様相は、環境要因の影響を強く受ける。近年の保全生態学研究の中で大きなウェイトを占める外来種の在来種への影響評価においても、種間関係への環境要因の影響を考慮することで、より正確な評価ができると考えられる。IUCNが選定した「世界の侵略的外来種ワースト100」にも挙げられているサケ科魚類ブラウントラウトは、種間競争と捕食を通じて、在来サケ科魚類の減少を招くことが懸念されている。本研究では、北海道の河川に広く分布し、水産重要種でもあるサクラマス(ヤマメ)へのブラウントラウトの影響が、環境によってどのように異なるかを野外調査によって調べた。調査は2009年5月下旬に石狩川水系千歳川の支流ママチ川で行った。環境が異なる上流・中流・下流に4調査区ずつ設け、サクラマスとブラウントラウトの密度推定と胃内容物採取、餌資源量把握のために流下昆虫と底生生物の定量採集を行った。両種の利用餌資源の重複度合いは重複度指数で評価した。競争の各個体への影響の程度は胃の充満度指数で評価した。さらに、調査区の物理的環境要因(水深・流速など)を計測した。その結果、底生生物の中でヨコエビが優占する下流では、ブラウントラウトはヨコエビ、サクラマスは陸生昆虫を主に捕食していた。ヨコエビがいない中流・上流では、利用餌資源の重複度合いが下流よりも大きかった。サクラマスの胃の充満度は河川規模が小さい上流は他よりも極端に低かった。以上より、下流よりも中流・上流の方が利用餌資源の重複が大きく、餌を巡る競争が強く生じることが示唆された。上流でのサクラマスの充満度の低下については、この区域はサクラマスが高密度であったため、種間競争に加え、種内競争の影響も考慮する必要がある。サクラマスに対する捕食は、本調査ではほとんどみられなかった。