ESJ57 一般講演(口頭発表) I2-03
*小北智之, 熊田裕喜(福井県立大・海洋), 奥田昇(京大生態研)
湖沼に生息する魚類の中には、沖帯に生息し、プランクトンを専食する沖合型と岸寄りの浅瀬や流入・流出河川に生息し、ベントス食性を示す底生型と言ったspecies pair(番種)が存在する分類群が知られている。特に、北米やヨーロッパの後氷湖に生息する番種は、種分化プロセスを詳細に検討するための格好の研究材料となっている。
広大な沖帯を持つ琵琶湖においても、沖帯に生息し、プランクトン食の固有種と沿岸部の浅所、内湖や流入河川に生息する姉妹種、つまり、番種の存在が知られている。しかし、生殖隔離機構を含めた種分化プロセスやメカニズムに関して、ほとんどの種で明らかにされていない。コイ科の琵琶湖固有種であるホンモロコ(“沖合種”)とその姉妹種であるタモロコ(“底性種”)はこのような関係にある代表的な番種であるが、両種には生殖後隔離は生じておらず、その番種の維持機構は不明のままである。
ホンモロコの代表的な産卵場である琵琶湖東岸の内湖で繁殖期に採集した多数の個体を核DNAマーカーによって解析したところ、タモロコのゲノムが部分的に浸透した雑種個体が存在することが判明した。さらに、安定同位体分析によって雑種個体の生活史パターンを詳細に検討した結果、すべての雑種個体は琵琶湖から回遊してきたことが判明した。雑種個体の摂餌や遊泳と関連した形態形質は中間的な特徴を示し、体サイズも小型で産卵場に出現した。このような結果を基に、両種の生殖隔離機構の一つとして、雑種個体への淘汰圧とその生活史の影響について検討したい。