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ESJ57 一般講演(口頭発表) I2-05

メスヒグマ行動圏を再考する

小平真佐夫(知床財団)


従来、北海道に生息するヒグマ (Ursus arctos) の行動圏は、北米などの内陸部に生息するヒグマと比較して狭く、メス成獣では年変動が少ないと報告されてきた。ヒグマがサケ類を利用できる知床半島では、特にその傾向が強いとされる。ここでは、2003年から国指定知床鳥獣保護区で始まったGPSテレメトリー調査の結果から、メスヒグマの行動圏を再検討した。ヒグマの捕獲と標識付けは、すべて同保護区内にある斜里町の幌別・岩尾別台地で行い、2003-2008年の6年間で、26頭にGPS首輪を装着し、約170ヶ月分のデータを取得した。このうち、10ヶ月以上のデータを取得できたメス成獣10頭から、のべ11例の年間行動圏を推定した。平均行動圏面積は100%MCP推定で38.85 km2 (SD = 33.07, 22.4-137.0 km2)であった。これは過去の同地域での報告より広く、北海道の報告例で最も広い浦幌の例(Sato et al. 2008)と変わらなかった(t14 = 0.273, P = 0.394)。メス2頭(137 km2と82.2 km2、後者は3ヶ月行動圏のため上記に含まず)の行動圏が特異的に広かったのは、行動圏を大きく離れて戻る移動(エクスカーション)を行ったためであった。これらの行動は約3週間で完了したため、月に1,2回のVHFテレメでは探知できなかった可能性が高い。また、2頭とも成獣であり、亜成獣の分散予備行動とは考えられない。こうしたエクスカーションは通常の行動とはみなされないとして行動圏推定から除外されることが多い。しかし、人とクマの軋轢が起きるのはむしろ行動圏の外縁部であることから、エクスカーションは管理上重要な意味を持つ。さらに、エクスカーションの頻度に地域差や個体差があり、かつ軋轢(駆除リスク)との相関があるのならば保全上も見逃せない要素であり、今後の検討に値する。


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