ESJ58 一般講演(口頭発表) A1-01
加藤聡史(龍谷大学)
乾燥地の草原植生は、降雨等の気象変動の影響を受けやすい。こうした気象変動に対するリスクを軽減するため、定住的な農業ではなく広域の草地を利用する遊牧が伝統的に行われてきた。放牧が植生の分布パタ-ンやバイオマスに応じておこなわれる一方、植生自体も家畜による摂食によって変化する。すなわち、こうした放牧下における生態系では、社会的・経済的要因による人間活動の変化が、植生と相互作用しながら環境を変えていくと考えられる。
モンゴルでは古くから放牧が営まれてきたが,1990 年の市場経済導入後、都市部を中心として家畜頭数の短期間での急激な増加が報告されており、さらに、2002年には居住地と農耕地について制限つきの私有化が認める土地私有化法が制定され、将来的に遊牧民の定住化を促進すると予測されている。こうした社会の変化によって、モンゴルにおける牧畜の在り方は伝統的な遊牧からより定住的なものへ変わっていくことが考えられる。
本研究では、こうした人間活動の変化や地球環境の変化が、将来のモンゴルの植生パタ-ンにどのような影響を与えるか予測するために計算機シミュレ-ションを行った。植生バイオマスの空間的な分布を二次元の格子モデルとして記述し、放牧による植生利用については植生分布空間上に配置される個体ベ-スモデルとして記述した。さらに、環境変動による降雨量の変化、経済市場価値の変化や土地利用のやりかたの違いなどについて、将来的にありうる可能性をシナリオとした。これらのモデルを用いて、それぞれの異なったシナリオの下での放牧による植生変化を予測することで、モンゴルにおける持続的な放牧の在り方について検討する。