ESJ58 一般講演(口頭発表) A2-03
*小林 宏輝, 花里 孝幸(信州大学 山岳科学総合研究所)
湖沼の水質浄化の手段として「バイオマニピュレ-ション」という手法がある. この手法は魚食魚の投入によってプランクトン食魚を減らし, その結果増えた大型ミジンコが水質汚濁の原因生物である植物プランクトンを効率よく摂食して減らすというものである. すなわち, 食物連鎖を介したトップダウン効果を利用したものだ. しかし日本では魚食魚の湖への放流は一般的に受け入れられていない. そこで, 日本において一般的な魚食魚であるウナギでバイオマニピュレ-ションを行うことを考えた. そこで本研究では, その可能性を隔離水界を用いて実験的に検証することを目的とした.
実験は諏訪湖畔にあるビオト-プ池 (面積1200?, 平均水深1.2m) で行った. この池に容積1000?の隔離水界を9個設置し, それを3つの処理区(魚除去区, モツゴ区,ウナギ区, 各3つ) に分けた. 実験期間は2010年7月24日から9月24日までの62日間, 水中の環境測定とプランクトンサンプリングを週に2度の頻度で行った. はじめはどこにも魚を入れず, モツゴ区とウナギ区に8月4日のサンプリング直後にモツゴを10個体ずつ投入した. 更にウナギ区では8月14日にウナギを2個体ずつ投入した. なお, 魚除去区には魚は投入していない.
実験開始後, どの隔離水界でも比較的高い透視度が維持されていた. モツゴ投入後のモツゴ区とウナギ区は, ミジンコ類が少なく低い透視度を示した. これは, モツゴがミジンコを減らした結果, 小型の植物プランクトンが増えたことが原因だと考えられる. その後ウナギ区では, ウナギ投入後1-2週間で透視度が上昇し, ミジンコ類( 種占種:オナガミジンコ )が増加した. これは, ウナギのトップダウン効果に現れたものと考えられ, ウナギの間接影響による十分な透視度の上昇を確認できた.