ESJ58 一般講演(口頭発表) B1-07
*大野(鈴木)ゆかり, 今廣佐和子, 河田雅圭, 中静透(東北大・生命科学)
ナラ枯れとは、ナラ菌によってナラが立ったまま枯れる現象を指す。ナラ菌は、カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)の共生菌であり、カシナガがナラに産卵する際に、ナラに感染する。このナラ枯れは全国に拡大中であり、ナラ枯れにより、鳥獣害の増加や、里山の景観や紅葉の喪失、土壌流出や土砂崩れの増加が危惧されている。昨年、全国的にクマ被害が急増し、原因は猛暑によるドングリ不足とされたが、ナラ枯れによるドングリ不足も影響しているのではないか、と推測された。また京都では、ナラ枯れにより、黄色に紅葉するはずのナラが紅葉せず、観光資源が減少した、と報告された。ナラ枯れの悪影響はこれからも大きくなると考えられ、ナラ枯れの感染拡大を予測し、防除対策を立てる必要がある。
そこで著者らは、カシナガの行動モデルを構築し、ナラ枯れの感染拡大予測をすることを目指している。本研究では、カシナガの移動、集合性や選好性を考慮した行動モデルを構築し、植生分布の違いが感染拡大や立ち枯れに与える影響を、コンピュ-タシミュレ-ションにより推測することを目的とした。
カシナガは大きい空間スケ-ルでは、飛翔によって移動し、小さい空間スケ-ルでは、幹の太いナラを好み、集合フェロモンによって集合する。あるナラに産卵するカシナガが多いほど、そのナラは枯死する傾向にある。しかし一回ナラ菌に感染し、枯死せずに生き残ったナラは、次の年から抵抗性を持ち、カシナガからあまり産卵されず、枯死もしにくい。これらをモデルに組み込み、個体ベ-スモデルを構築した。個体ベ-スモデルのシミュレ-ションでは、ナラの本数が均一な場合、ランダムな場合、そしてナラ林とナラ林の間が離れている縞模様の場合を設定した。また、ナラの幹の太さが均一な場合とランダムな場合も設定した。これらの植生分布の違いが、感染拡大や立ち枯れの被害に与える影響を調べる。