ESJ58 一般講演(口頭発表) B2-03
*内井喜美子(東大・総合文化), 奥田昇(京大・生態研), 源利文(地球研), 川端善一郎(地球研)
野生生物感染症は、時として生物個体群の衰退や絶滅を引き起こす。1990年代に初めて認識された新興病原生物コイヘルペスウイルス(CyHV-3)は、2004年に琵琶湖のコイ(Cyprinus carpio)の大量死を引き起こした。琵琶湖コイ個体群には日本固有の野生型系統とユ-ラシア由来の飼育型系統が含まれることが知られるが、馬渕ら(2010)により、2004年に大量死したコイの90%近くが野生型のmtDNAハプロタイプであったことが明らかにされた。感染実験により野生型は飼育型に比べCyHV-3への感受性が高いことが示唆されていることから、琵琶湖においてCyHV-3は野生型系統に、より甚大な被害をもたらしたことが推測される。本研究では、CyHV-3が琵琶湖の野生型系統にもたらした影響を評価するため、2004年の大量死直後の琵琶湖コイ個体群におけるmtDNAハプロタイプ頻度と、2006年のそれとを比較した。その結果、琵琶湖北部地域において野生型ハプロタイプ出現頻度の顕著な減少が認められた。北部地域は他地域に比べ、2004年には野生型ハプロタイプが際立って優占しており、野生型にとって極めて重要な生息地であったと考えられることより、この地域に置ける野生型の頻度低下は、琵琶湖における野生型系統のコイへの深刻なダメ-ジを示唆する。