ESJ58 一般講演(口頭発表) D2-07
岸本年郎(自然研)
海洋島である小笠原諸島の生物相は、分類群の構成が偏っていること、種数は少ないものの固有種の割合が多いことで知られている。本地域の昆虫相は20世紀初頭から研究されており、これまでにも何度か総括的な種リストの作成がされているが(中根, 1970; 加藤, 1992; 大林他, 2004)、今なお新記録種や未記載種が続々と発見・報告されている。今回、改めて文献記録及び現地調査の結果を集約したところ、23目231科1419種(亜種を含む)が確認された。その中で、それぞれの列島のみに生息する列島固有種は、聟島列島3種、父島列島49種、母島列島49種、火山列島4種であった。
聟島列島は調査不足でこれまでの記録が161種と少ないが、ノヤギの影響で森林が著しく衰退しており、その影響で多くの種が絶滅したと考えられる。ただし、わずかに残存した森林には列島固有種も生息している。父島列島では23目218科1017種の記録・生息が確認され、小笠原固有種は297種(固有率29.2%)であった。諸島内でもっとも面積の大きな父島にはかつて多くの固有種が存在したと考えられるが、現在では外来種の影響により、昆虫群集の貧弱な島になっており、地域的に絶滅したと考えられる種も多い。母島列島では17目178科799種(小笠原固有種278種:固有率34.8%)がリストアップされた。母島には成熟した森林に生息する固有種が多く、湿性高木林の発達と関係していると考えられる。なお、父島もしくは母島のみに産する固有種の中には近年の確認記録がなく、絶滅か、それに近い状態の種がいくつもある。火山列島では16目106科239種(小笠原固有種37種:固有率15.5%)の記録・生息が確認された。戦火で焦土となった硫黄島にはほとんど固有種は見られず、逆に外来種率が高い。対照的に人がほとんど踏み入れていない南硫黄島では、総種数は少ないものの外来種の侵入はほとんど認められなかった。