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ESJ58 一般講演(口頭発表) E1-01

可携巣トビケラにおける鉱物組成が及ぼす砂巣材選択の学習への影響

*岡野淳一,菊地永祐,佐々木理,大井修吾


多くの可携巣トビケラの幼虫は,川底質の砂から適切な巣材を選び,それらを綴り合せて筒巣をつくる.一般的な種は,体との摩擦を軽減するために巣内壁に分泌物で内張りをするが,フトヒゲトビケラ科(Odontoceridae)は例外的に内張りを行わず,代わりに表面が滑らかな砂(石英など)を選り分けて巣材として使う.しかし,幼虫は成長に伴い,より大きな巣材を必要とする.このことから,底質中の滑らかな砂の豊富さが,その粒径によって異なる場合,選択する(探す) コストも成長段階により変化し,結果,選好度が変化することが考えられた.

そこで,大きい粒径ほど滑らかな砂の含有率が少ない底質を持つ,花崗岩由来の川で採取した本科に,表面粗さが異なる2種の人工砂(粗い,滑らか)を同数づつ混ぜた底質で,砂巣材を選択させる実験を行い,成長による選好性の変化を見た.また,野外における底質と,巣に使われている砂の表面粗さと鉱物組成を粒径別に測定し,実験で見積もられた選好度の変化と比較した.

その結果,当該の花崗岩由来の底質は,小さい粒径ほど石英の含有率が高く(即ち滑らかな砂が多い),大きい粒径ほど長石の含有率が高く,滑らかな砂が少なくなることが分かった.選択実験においても,小さな砂を必要とする未熟幼虫は,滑らかな砂の選好性が高いが,成長に伴い,選好性が低くなることが分かった.

この結果から,最適理論から予想されるように,底質の鉱物組成の粒径変化によって選好度(資源選択の意思決定)が変化することが示唆された,さらに本結果を元に,滑らかな砂が豊富な環境下で育てる移植実験を行い,この意思決定の変化のメカニズム(遺伝的規定か、学習か)を探った.本発表ではその結果とともに,今後の展望として学習能力の地域変異の可能性を議論する.


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