ESJ58 一般講演(口頭発表) E1-08
*森貴久(帝京科学大),國分亙彦,高橋晃周(極地研)
鳥類では,雌雄で抱卵・育雛をする種が多い。このとき,雌雄は交代で採餌に出かけることになる。抱卵期の採餌は自分のためだけの採餌であるのに対し,育雛期の採餌は,自分と雛のための採餌となる。
ヒゲペンギンPygoscelis antarcticaも雌雄が交代で抱卵・育雛する。ペンギンは肺呼吸動物で,水中で採餌する。このとき,採餌努力は,潜水回数と潜水時間,潜水深度,採餌トリップ時間などで測ることができる。採餌努力は,自分のための採餌期間である抱卵期と,雛のための採餌も加わる育雛期で異なることが予想されるが,どのように異なるかは明らかではない。雛への給餌は親にとっては負担増であるが,それへの対応としては,潜水回数を増やす数的な応答と,潜水行動を変化させて対応する機能的な応答とが考えられる。そこで,抱卵期と育雛期の採餌行動の変化を,同一個体の潜水行動を追跡記録することで明らかにした。
調査は2006年12月に南極キングジョ-ジ島で行なった。10個体に連続水深記録計を2週間程度装着し,卵の孵化前と孵化後の潜水行動を比較した。
結果は,抱卵期における採餌トリップ時間は育雛期よりも長くなり,したがって採餌トリップあたりの潜水回数も多かった。潜水時間は,育雛期には抱卵期に比べて1回あたりの潜水時間が長くなったが,必ずしも潜水深度が大きくなったわけではなかった。これらのことは,雛への給餌という制約は餌資源の利用の仕方に影響し,潜水回数を増やすだけでなく,潜水の時間配分をより適応的に精緻に組立てることで,潜水自体がより収奪的になることを示しており,雛への給餌という負担増に対して,機能的に対応していることを示唆している。