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ESJ58 一般講演(口頭発表) E1-11

鱗食性シクリッドの右利き・左利きにおける捕食行動の運動解析

*竹内勇一(名大・理), 堀道雄(京大・理), 小田洋一(名大・理)


動き回る被食者を捕食するには、それらが逃げる前に捕えるといった、対象に応じた一連の俊敏な動作が必要とされる。

タンガニイカ湖には、泳ぐ魚の鱗をはぎ取って食べるシクリッド科魚類数種(Perissodus spp.)が生息している。彼らの口は、左右どちらかに曲がって開く。右顎が発達し口が左に開く右利き個体は相手の右体側の鱗を、左顎が発達した左利き個体は左体側の鱗をはぐことが、野外調査から示されている。我々は鱗食魚の捕食行動の運動成分、時間経過、左右性を解明するため、その一種(P. microlepis)を輸入し、水槽内でこの鱗食魚の捕食行動をキンギョを被食魚として高速度カメラ(500fps)で撮影し、運動解析を行った。

鱗食魚は通常、底沿いに忍び寄ってから被食魚に突進する。典型的な捕食行動は、?被食魚後方への接近、?側方への回り込み、?構え、?胴の屈曲を伴う噛みつき、?垂直方向への体躯の捻り、の5過程で構成されていた。過程?では、左か右への素早い体の屈曲運動が行われた。実験した個体の90%以上で鱗をはぐ被食魚の体側と屈曲方向が著しく偏っており、その方向が開口方向と合致する時に捕食成功率が極めて高かった。また、最大屈曲角度と最大角速度は利き側が逆側より有意に大きかった。

この運動の脳内機構を探るため、過程?の屈曲運動に酷似し、後脳のマウスナ-(M)細胞で駆動される音刺激での逃避運動を同一個体で調べた。その結果、左利きも右利きも、逃避方向の最大屈曲角度と最大角速度に左右差は見られなかった。もし鱗食時の屈曲運動もM細胞で駆動されるなら、M細胞から下位の脊髄や胴筋に左右差はなく、M細胞より上位中枢に左右差があると考えられる。

以上より、鱗食魚は大きく屈曲できる利き側を認識して襲うことが示され、鱗食行動の左右性を生む責任部位が後脳以前の神経系にあることが示唆された。


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