ESJ58 一般講演(口頭発表) E1-12
*瀧井暁子(信州大院・総合工学系), 泉山茂之(信州大・農), 望月敬史(あかつき動物研究所)
南アルプス北部の高山帯において、1990年代末からニホンジカが初めて確認されるようになった。さらに、2006年頃からは高山植物群落に、ニホンジカによる採食の影響が顕著にみられるようになり、現在では希少な植物群落の消失が危惧されている(中部森林管理局 2007)。
高山帯まで進出したニホンジカの年間を通した行動を明らかにするため、当地域では、2006年より電波発信器を装着した追跡を実施している(泉山・望月 2008)。しかしながら、当地域の山岳地形の複雑さやアクセスの悪さから、地上波による個体追跡では詳細な環境利用の把握に限界があるため、2007年以降はGPS首輪による個体追跡を継続的に実施している。
本発表では、2007~2009年に南アルプス北部の北沢峠(標高2,032m)付近で捕獲し、9ヶ月以上追跡可能だった成獣5頭(オス4頭、メス1頭)の利用場所、利用標高、移動距離、移動時期について報告する。GPS首輪の測位間隔は、1時間に設定した。各シカのGPS首輪の測位成功率は36~86%であった。追跡個体は、それぞれ異なる地域を季節的に利用していており、3ヶ所以上の集中利用域を有していたが、共通して捕獲場所の北沢峠付近に一定期間滞在していた。年間の利用標高差は、個体により332~2,078mと大きく異なり、メス1頭を除くオス4頭が標高2,500mを利用していた。また、月毎の平均利用標高は、11~4月まで大きく変化せず、5月以降上昇し、7~8月に最も高く(標高2,019.9~2,913.6m)、その後徐々に下降し10月には標高2,000mまで下がった。標高2,500m以上の亜高山帯上部~高山帯における滞在期間は、個体により異なっていた。このように大規模な標高移動をするニホンジカについての知見は、これまで本州地域で得られていなかったものである。