ESJ58 一般講演(口頭発表) E2-02
小宮山英重(野生鮭研)
2004-2009年までの6年間、毎年8-11月に、北海道知床半島ルシャ地区でサケ科魚類(カラフトマス・シロザケ)を捕食するヒグマの行動を直接観察法で記録した。観察は、目視可能な日の出前から日没後までの時間帯に、自動車の中から行った。観察域内にはサケ科魚類が自然産卵している川が3本流れている。これらの河川の下流域を含めた約58haの範囲で204日間(年平均34日)にのべ約80頭のクマを個体識別し、その行動を記録した。クマがサケ科魚類を捕食する行動は、基本的に単独で行われた。生きた魚の捕獲方法、捕獲魚の扱い方、採食方法、およびそれらの頻度は、個体独自の方法を示した。また、捕獲場所の選定やそこへの入出ル-ト、クマ個体間の距離間隔の許容度、クマ観察車(=著者)の存在の許容度なども個体ごとの特徴を示した。少数の複数個体が単独で行う特徴的な同様な行動を分析するとその中に母子関係である個体が含まれ、行う時期やその頻度も母子でより似ている事例を見つけることができた。一般的にクマ科動物は、単独で行動する性質が強く、同時に、学習能力が高いと推定されている。ルシャ地区のヒグマの場合は、母グマから学習した後、独自に開発した行動を駆使して生活しているとの印象を受けた。観察区内でサケ科魚類を捕食し、かつ2年間以上行動の記録ができたクマは、大人オス2頭、大人メス15頭であった。なお、6年間で子を連れたメスは19頭を記録した。また、2004-2006年の3年間に11頭のメスから生まれ育った0歳子グマ25頭のうち2009年までに観察区内で3-5歳まで育ち定着した個体は、オスはゼロ、メスは4頭(16%)であった。以上の結果からルシャ地区のヒグマ社会は、娘グマが母グマの行動圏を継承し、同時に生活技術を伝承する確率が高い母系社会であると推定された。