ESJ58 一般講演(口頭発表) E2-09
*嶋田敬介(富山大・理工), 北出理(茨城大・理), 前川清人(富山大・理工)
社会性昆虫であるシロアリの腸内には多くの原生生物や細菌が共生しており、木材消化や窒素源の確保に大きく貢献している。この相利共生の関係は、多くの研究者の興味を引き、古くから研究が進められてきた。しかし、それらの研究には主にワ-カ-が用いられてきたため、他のカ-ストにおける腸内微生物との共生関係は未だ不明な点が多い。例えば、コロニ-を新たに創設する一次生殖虫は、コロニ-の発達に伴い、餌である木材を分解する能力が変化する事が知られるが、このとき腸内微生物との共生関係が変化するかどうかは明らかではない。
本研究では、コロニ-の発達に伴う生殖虫と腸内微生物の共生関係のダイナミクスを明らかにする事を目的として、ヤマトシロアリを用い、様々な時期のコロニ-の一次生殖虫、二次生殖虫及びソルジャ-の共生原生生物の量を、後腸サイズの測定及び原生生物の α-tubulin 遺伝子の発現解析により推定した。その結果、ワ-カ-数が少ない時期の一次生殖虫では、生殖巣はほとんど発達していなかったが後腸は大きく、α-tubulin 発現量はワ-カ-と同程度に高かった。しかし、ワ-カ-が100匹を超える時期の一次生殖虫や野外で得られた二次生殖虫では、生殖巣は顕著に発達していたが後腸は縮小しており、α-tubulin 発現量も著しく低かった。一方、ソルジャ-での α-tubulin 発現量は、ワ-カ-よりわずかに低いものの、生殖虫と比べると有意に高かった。従って、共生原生生物の保有量はカ-ストや発生ステ-ジによって異なり、繁殖形質の発達と共生微生物量との間には負の相関関係がある事が示唆される。以上より、シロアリにおける共生微生物の獲得と社会性の維持及び進化要因との関連性について考察する。