ESJ58 一般講演(口頭発表) E2-11
*山村則男(地球研)
世界中の多くの生態系において、人間による過度な資源収奪による劣化が深刻な問題となっている.そのような生態系の維持管理を考えるとき、人間社会系と生態系が相互作用するネットワ-クとして全体を把握することが重要である[1].地球研プロジェクト「生態系ネットワ-クの崩壊と再生」[2]において、我々は、モンゴルの草原系とマレ-シア・サラワクの森林系では、環境問題を引き起こしている社会生態ネットワ-クに大きな違いがあることを見いだした.草原系では、経済のグロ-バル化により遊牧民は換金性の高い家畜を多く飼うという草原の過剰利用により草原の劣化を導いている.一方、森林系では、企業の直接の森林開発によって先住民が利用できる森林が減少している.
我々は、このような系の相違を表現できる社会生態系の動態を数理モデル化し、それらの系のグロ-バル経済の変化に対する安定性を調べた.草原系では、草原劣化に対する家畜量の制限という負のフィ-ドバックが働くが、降水量の大きな変動によってシステムは不安定化する.森林系では、森林の減少と先住民の森林利用の減少による森林開発の受け入れに正のフィ-ドバックが働くため、系はもともと不安定であることがわかった.ネットワ-クの違いに応じて、どのような政策シナリオが生態系の持続的利用に有効なのかも数理モデルに基づいて議論する.
[1] Folke, C., Carpenter, S., Walker, B. Scheffer, M. Elmqvist, T. Gunderson, L. and Holling, C. S. (2004) Ann Rev Ecol Evol Syst 35: 557-581.
[2] http://www.chikyu.ac.jp/rihn/project/D-04.html