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ESJ58 一般講演(口頭発表) F1-03

雄アマゴの成熟サイズの個体群間変異:小さい川では小さい雄がお得?

*森田健太郎(北水研), 坪井潤一(山梨水技セ)


多くの動物では体サイズに性差がある.一般に,一夫多妻の哺乳類では雄の方が大きく,乱婚で産仔数が雌の体サイズに規定される魚類では雌が大きい.

しかし,サケ科魚類の体サイズの性差は一様ではなく,これは雄の多様な繁殖戦術と関係すると考えられる.つまり,サケ科魚類の雄の繁殖行動にはスニ-カ-とファイタ-という二つの戦術があり,大きい雄はファイタ-の戦術,小さい雄はスニ-カ-の戦術をとるが,両者の繁殖成功には産卵場の物理環境なども影響するだろう.例えば,水深が浅く狭い川では,小さい雄の方が繁殖時の行動圏が広く,スニ-カ-の繁殖成功が高まると予想される.

本研究では,サケ属アマゴの成熟サイズの個体群間変異を調べ,それらと河川規模との相関関係を調べた.調査は,2010年10月15-20日に山梨県富士川水系の8支流で行った.各支流において,産卵場を含む200-300mの区間でアマゴを捕獲し(計613個体),川幅および水深を計測した.捕獲したアマゴは,体長の計測と性成熟の判別を行った.

雌雄ともに支流間で成熟サイズは有意に異なったが,雄の方が大きな支流間変異が認められた(支流間の分散成分,雄38%,雌16%).雄の成熟サイズは,水深および川幅と負の相関があり,小さい川ほど早熟の傾向にあった.一方,雌の成熟サイズは,河川規模と相関はなかった.相対成熟サイズ(成熟雄の体サイズ/成熟雌の体サイズ)は河川規模と正の相関があり,大きい川では雄の方が大きく,小さい川では雌の方が大きかった.

以上の結果から,小さい川では雄の成熟開始サイズが小さく,また,小さい川では雄の方が雌よりも相対的に小さいことが示された.これは,小さい川ではスニ-カ-が有利になり,雄の体サイズに性淘汰があまり働かないためであると考えられた.


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