ESJ58 一般講演(口頭発表) I2-01
*黒河内寛之,當山啓介,寺本宗正,宝月岱造(東大院・農)
現在,日本の多くの河川で分布を拡大しているニセアカシアであるが,その繁殖特性には不明な点が多く,特に,栄養繁殖と種子繁殖にそれぞれどの程度依存して分布拡大しているのかについて,実証的かつ量的な研究はほとんど無い.ニセアカシアの繁殖様式を考慮し,本種の河川敷への分布拡大過程を明らかにすることは,効果的なニセアカシア河畔林管理の一助となる.本研究では,千曲川河川敷のニセアカシア林の中で,樹高の高い個体が広く分布していた場所に設置した5つの調査地と種子個体群からそれぞれ採取したサンプルを対象とし,葉緑体SSRマ-カ-による母系解析と核SSRマ-カ-による集団遺伝解析および親子兄弟解析を行い,ニセアカシア林の分布拡大過程を解明した.
その結果,河川敷におけるニセアカシア個体群の特徴,および分布拡大様式を,以下のように推測した.[1]流域に広がるニセアカシア個体群は任意交配集団で,その集団に由来する種子が散布され,一部がニセアカシアの定着していなかった河川敷へ流れ着く.[2]流れ着いた幾つかの種子が,安定した場所で発芽し,定着する.[3]定着した個体は,水平根を伸長させ新たなラメットを栄養繁殖により発生させると同時に,種子を近傍に散布する.[4]その散布された種子の一部が定着し,栄養繁殖によりジェネットを拡大する.[5]その結果,先に定着した大きなジェネットと後から定着した小さなジェネットが混在するニセアカシア林が形成される.また,大きなジェネット間には互いに親類関係が無い場合が多いが,小さなジェネットは大きなジェネットや他の小さなジェネットと親類関係が認められる場合が多い.