ESJ58 一般講演(口頭発表) J1-05
*杉田久志(森林総研),高橋利彦(木工舎「ゆい」),市原 優(森林総研・東北)
林床に多数の実生・稚樹がみられる亜高山帯針葉樹林において、オオシラビソが地表上と根張り・マウンド上の両方で実生バンクを形成しているのに対し、コメツガの実生バンクは根張り・マウンド上に限定されていることが報告されている(杉田・高橋,2008)。その実生バンク成立を規定する要因としては、以下のような仮説が考えられる。[仮説1]冬季積雪下の温度条件のちがいにより雪腐れ病菌の蔓延の程度が異なる:根張り・マウンド上は氷点下で凍結している期間が長いため菌害を免れるが、地表上は0℃で凍結しないため著しく菌害が蔓延する。[仮説2]雪腐れ病菌の生育量そのものが基質によってちがう:地表上は雪腐れ病菌が多く生育しているが、根張り・マウンド上は少ない。本報告では、まず仮説1を検証するため、地表上と根張り・マウンド上において冬季の温度環境を観測し、実生バンク成立に及ぼす影響について菌害回避と関係づけながら論議する。
調査地は岩手県早池峰山の小田越試験地で、最深積雪深は1.5-2m程度である。小型温度デ-タロガ-を根張り上、マウンド上および地表上に設置し、2007/08-2009/10の3冬季間1時間おきに温度を観測した。
地表上では、11月中旬の根雪直後から0℃となり、5月中下旬の消雪までその状態が続き、凍結した期間はきわめて短かった。一方、根張り上、マウンド上は根雪後も氷点下の値を示し、凍結した状態が2月末頃まで続いた。その後0℃となるが、その期間は地表上に比べて著しく短かった。雪腐れ病菌は-5℃では病原性を示さないが、0℃では高い病原性を示すことが報告されており(程,1989)、根張り・マウンド上の冬季温度環境がコメツガの種子・実生ステ-ジにおける菌害回避に貢献し、そこでの定着を可能にしている可能性がある。