ESJ58 一般講演(口頭発表) J1-10
*工藤岳(北大地球環境),井田崇,L.D. Harder (Univ. Calgary)
花序内の花間で種子生産が変動する事例は一般的である。この変動を説明する至近要因として、「花粉制限」と「資源制限」がある。例えば、花序内の先端部で種子生産が低下する現象は、より資源供給源に近い果実に資源を先取りされてしまうために起きる資源制限と考えられる。しかし、基部の果実を取り除いてもポジション効果が解消されない事例も多く、資源制限のみではすべてを説明できない。種子生産のポジション効果が花序構造に特有の構造的な違いを反映したものである場合、種子生産の違いは潜在的な「構造効果」と定義される。これら3つの制限要因とは異なる視点で種子生産の変動を説明するものとして、果実自身の資源要求性(シンク強度)が生み出す効果が考えられる。これは、資源要求度の高い部位に優先的に資源供給が行われると仮定する、「シンク・ソ-スバランス」に着目した考え方である。例えば、多くの花が受精されたり、他家受粉に成功した花序ほど資源要求性が強いために多くの資源が供給され、種子生産が増加すると予測される。果実の潜在的な成長速度に依存した資源供給が行われる、と仮定したシンク強度モデルを構築した。このモデルでは、1)繁殖器官全体への資源供給量は各繁殖ユニット(花・果実)のシンク強度の総和に比例し、2)個々の繁殖ユニットへの資源分配は花序構造によって決まる、という仮定に基づいている。花序内の種子生産パタンのシミュレ-ションを行った結果、1)花序内で他の花が他家受粉されるほどシンク強度が高まり種子生産は増大する、2)花序内で順次開花する間隔が長くなるほど後咲き果実のシンク強度が弱まり種子生産が低下する状況などが示された。これらの予測は、既存研究の種子生産パタンと矛盾しない。シンク強度モデルでは、花粉制限、資源制限、構造効果を包括的に理解することができることを示す。