ESJ58 一般講演(口頭発表) J2-11
加賀屋美津子*,谷 享(環技研),可知直毅 (首都大)
不定期な撹乱の起こる環境に生育する多くの可変性二年草では、開花齢と実生出現時期に顕著な集団内変異が観察される。これらの変異は環境の違いによって生じ、不定期な撹乱による実生定着の失敗の回避に寄与すると考えられてきた。環境によって開花齢と実生出現時期に変異が生じるならば、一親個体の子集団内にこれらの変異が生じる。しかし、開花齢や実生出現時期の変異がどのようにして生じるのかは明らかではない。そこで、可変性二年草カワラノギクを用いて、開花齢と発芽時間(種子が吸水を開始してから発芽するまでの時間)の変異に対する遺伝的効果と環境の効果を実験により調べた。その結果、(1)土壌栄養条件の効果を調べた栽培実験では、低栄養条件で開花齢が遅れる傾向があり(環境の効果)、栄養条件に対する開花齢の変化には家系間変異(遺伝的効果)が認められた。(2)連続湿潤条件での種子の平均発芽時間には、母親及び父親の遺伝的効果が認められた。(3)野外の地表面での湿潤期間と乾燥期間の繰り返しを模した実験条件では、連続湿潤条件より平均発芽時間が遅れた。この遅れは湿潤期間の短い条件で大きくなった。以上の結果から、開花齢と発芽時間の変異には、遺伝的変異と環境による表現型の変化(表現型可塑性)が関与することが示唆された。このことから、一親個体の子集団内の開花齢や発芽時間の変異には、他殖によって生じる遺伝的変異と生育地の土壌栄養条件や地表面の湿潤期間の空間的不均一性に対するこれらの形質の表現型可塑性が関与すると考えられる。さらに、開花齢と発芽時間の変異には遺伝的効果よりも環境の効果が大きかったことから、一親個体の子集団内の開花齢や発芽時間の変異を生じさせる要因として表現型可塑性が重要であることが示唆された。