ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-014
*白石拓也(筑波大院・生命環境),下野綾子(筑波大・遺伝子実験センタ-),杜明遠(農環研),唐艶鴻(国環研),廣田充(筑波大・生命環境)
青海チベット高原の大部分を占める高山草原は、古くから放牧地として利用されてきた生態系である。しかしながら、近年の家畜数の増加による過放牧によって、高山草原の荒廃が懸念されている。一般的に、過放牧は草原の生産力だけでなく生物多様性の著しい低下も引き起こすことが指摘されている。高山草原でも同様の報告がなされているが、既存の研究の多くは、限られた調査期間や標高で植生全体を対象としており、年変動の程度や標高の違いが放牧に及ぼす影響の解明には至っていない。本研究では、これらを解明すべく標高の異なる高山草原を対象として、放牧停止後4年目までの結果から、特に年変動や標高および植物の機能群による放牧の影響の違いについて報告する。
調査は中国青海省の海北試験地近郊にある高山斜面(3600-4200m)で行った。2006年に標高200m毎に禁牧区(20x5m)を設置し、2007年、2008年、2010年に禁牧区の内外において方形枠内の植物量と種数を調査した。その結果、禁牧区内の植物量は3年間連続して増加傾向にあり、標高によって異なるが初年度比で平均2.4倍増加していた。機能群と標高別にみると、イネ科型は全標高で初年度比平均3倍に増加したのに対し、広葉型は高標高のみで平均3倍の増加がみられた。また、家畜の被食によって低標高域では全植物量の5割程度、高標高域では3割程度の減少が見られた。機能群別にみると、低標高域では被食によってイネ科型は禁牧区に対して8割程度被食されるのに対し、広葉型は反対に3割程度増加することが明らかになった。このように高山草原生態系では放牧によって、ほぼ全標高でイネ科型の植物量が減少するのに対し、低標高では広葉型の植物量が増加傾向であることが明らかになった。また、全標高で放牧によって種数は有意に減少した。