ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-017
*富松裕(東北大・生命科学)・陶山佳久(東北大・農)・中野和典(東北大・工)
生物多様性の減少は,さまざまな生態系機能に対して大きな影響を及ぼす可能性がある。しかし,種多様性に比べると,遺伝的多様性の効果に関する実験的検証は極めて少ない。また,生態系機能を対象とした研究では,測定が容易な一次生産量などが評価されることが多く,大気や水の浄化を含む多くの重要な機能がほとんど扱われていない。私たちは,汚水処理用の人工湿地を模した小規模な系を用いて,植栽するヨシ(Phragmites australis)の遺伝子型数を操作する実験を行った。遺伝マ-カ-で識別した6つの遺伝子型を用いて,各遺伝子型を単独で植える「単植」処理と,すべての遺伝子型を植える「混植」処理とを設け,生育後のヨシの地上部バイオマスと,排水中の無機態窒素濃度を測定した。ヨシが生育する間は,定期的に栄養塩負荷の高い水を与え,一定の地下水位が維持されるようにした。生育後のヨシのバイオマスは,「混植」の方が「単植」よりも平均で27%も大きかった。この遺伝的多様性の効果は,主に補完効果(complementarity effect)によるところが大きく,遺伝子型間のニッチ分化や相互作用によって,資源の利用効率が高まったものと考えられる。さらに,「混植」では,「単植」に比べて窒素の除去効率が高くなる傾向が認められ,排水中の窒素濃度が最大で30%低かった。植物による窒素吸収量は限られていることから,ヨシの生育が硝化や脱窒に関与するバクテリアの活動にも影響を与えている可能性がある。本実験の結果は,植栽したヨシの遺伝的多様性が,ヨシの一次生産量だけでなく,ヨシや根圏に生育するバクテリアを通じた水質の浄化効率にまで影響を及ぼし得ることを示している。