ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-025
*小泉恵佑(横浜国大院・環境情報), 小池文人(横浜国大・環境情報)
かつて身近に存在した半自然草地は1960年代以降全国的に減少傾向にあり、半自然草地の保全と草原生植物の多様性維持は重要な課題である。ここで、都市近郊の里山に着目すると、農的な刈取り管理に伴い維持されている刈取り草地が存在し、草原生植物の生存が可能となっている。しかし、刈取り草地が草原生植物にとって好適な避難地となりえるのかは検討の余地がある。そこで、本研究では草原生植物個体群の空間分布と構造を調査し、都市近郊里山における草原生植物個体群の現状を明らかにすることを目的とした。
神奈川県中郡大磯町付近に設置した1.5km×1.0kmの調査区を6個のメッシュに分割し、各メッシュを一定時間踏査し、ススキクラス標徴種の出現場所を記録した空間分布図を作成した。また出現場所は林内、林縁平坦面、林縁斜面、耕地間斜面、畦畔草地、荒地、耕作放棄地、その他の立地タイプに区分し、その他を除く立地において個体群調査対象種外の種も含めた植生調査を行った。今回は立地タイプの中で多数の個体群が確認できた林縁斜面、耕地間斜面におけるアキカラマツ9地点、ツリガネニンジン5地点を対象とし、個体群構造として地上茎の地際直径の頻度分布と着花状況を調査し、個体群間の比較を行った。
調査した都市近郊里山では、林縁斜面及び耕地間斜面にススキクラス標徴種が多種確認され、群集レベルでの類似度も高かった。これらの立地の個体群では有性繁殖可能サイズの茎の平均割合はアキカラマツ57%、ツリガネニンジン75%であった。また夏季の刈取りが行われた立地では、アキカラマツは個体損傷により実際の着花割合が低い値となったが、ツリガネニンジンは損傷個体も着花していた。以上より、都市近郊里山の草原生植物個体群は繁殖可能なサイズの茎を形成できているが、刈取りに伴う損傷により、種によっては個体群の更新が行なえていない可能性が示唆された。