ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-047
*渡邉愛美(東京農大・院・林学),黒沢秀基(尾瀬林業株式会社),高梨斉(株式会社モンベル),亀山慶晃(東京農大・地域環境),武生雅明(東京農大・地域環境),中村幸人(東京農大・地域環境)
一般に高山の雪解けは,積雪の少ない尾根(風衝地)から谷(雪田)に向けて徐々に進み,植物の開花もこれに伴い進む.また訪花昆虫の活性や訪花昆虫相も季節により変化する.このような相互作用が雪解け傾度に沿って変化することは,植物の繁殖成功(種子生産)にどのような影響を与えるのか?生育環境の限定される高山植物にあって,ユキワリソウは白馬八方尾根の尾根から谷に生育する種のひとつである.本研究は異型花柱性植物ユキワリソウを対象に雪解け傾度に沿った繁殖成功の差異とその要因について調査した.
ユキワリソウの訪花昆虫相は尾根と斜面・谷では異なった.主要な訪花昆虫は尾根ではハチ類,斜面・谷ではアブ類だった.訪花頻度は尾根より谷で高かった.それに伴い,柱頭に付着した適法花粉数と総花粉数も尾根より谷で増加した.しかし自然条件下での種子数(種子生産数)は斜面・谷と比べ,尾根で多かった.強制適法受粉処理した場合の種子数も自然条件下の種子数と同じく尾根で多かった.
以上の結果から,ユキワリソウへの訪花頻度は季節で異なり,この変化は適法花粉数に影響することが示された.また斜面・谷では充分な花粉を付着させても種子数は尾根より少なく,繁殖への資源投資量に差があると考えられた.斜面・谷は尾根に比べて雪解け時期が遅いため,光合成可能期間が短く,また他種による被陰を受けやすい.雪解け時期が遅いことは開花期では訪花昆虫の最盛期と重なり,訪花頻度(適法花粉数)の面で繁殖成功に有利となる.しかし結実期では胚珠を成熟させる資源が不足し(資源制限),不利となる.高山では同じ植物種でも雪解け時期の違いにより,資源制限と花粉制限の強さが変化することが明らかとなった.