ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-049
*中山新一朗 (東大・院・総文), 嶋田正和 (東大・院・総文)
植物の多くは完全な他殖か、または完全な自殖で種子を生産するが、一部は自殖と他殖の混合戦略をとることが知られている。この混合戦略を何が安定化させているのかについて、さまざまな仮定の下で理論的な研究が行われてきた。混合戦略の安定性を扱う理論研究では自殖率を変化させるアリルと、その他のロ-カスに生じる有害突然変異の集団中での挙動を解析することが一般的である。しかしこれまでの研究では花粉の減価に代表される生態的要因や、超優性などの特殊な遺伝的要因を仮定することなしに安定な自殖と他殖の混合戦略を説明することはできなかった。
われわれは遺伝子の連鎖を考慮した個体ベ-スシミュレ-ションを行い、繁殖戦略の進化的安定性を解析した。自殖率を変化させるロ-カスおよびその他のロ-カスの連鎖について現実的な仮定を置いて解析した例はこれが初めてである。モデル生物シロイヌナズナのゲノム構造を模した個体の集団では、世代あたりに生じる有害突然変異の個数が中程度であるときに自殖と他殖の混合戦略が安定となりうることが見出された。この結果により、有害突然変異の挙動のみで自殖と他殖の混合戦略をとる植物の存在を説明できる場合があることが示唆された。