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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-057

伊豆諸島におけるクサギ属植物の花形態進化

*水澤玲子(京大・農),山崎理正(京大・農),長谷川雅美(東邦大・理),井鷺裕司(京大・農)


島の生物相は本土と比べて貧弱であるため、植物が本土から島へと移入した場合、本来の送粉者が移入先の島に生息しない事がある。本土と島の訪花者相の違いが花形態に及ぼす進化的影響を明らかにするために、広域分布種のクサギと、クサギに近縁な伊豆諸島準固有種シマクサギの送粉様式を比較した。

本土におけるクサギの主な訪花者は黒色系アゲハ類だが、伊豆諸島ではその密度が低く、代わりにホウジャク類が主な訪花者になっている。シマクサギの雄蕊・花弁は共にクサギよりも短く、花筒はわずかに長い。シマクサギは自家花粉による結実率がクサギよりも著しく高い。クサギとシマクサギの花形態・自家和合性の違いは、本土と伊豆諸島の送粉者の違いを反映していることが予想された。

まず、クサギとシマクサギに対するアゲハ類とホウジャク類の送粉効果を評価するために、網室の中にクサギ(シマクサギ)の花序を置いてアゲハ類(ホウジャク類)を訪花させた後、柱頭の先に運ばれた花粉数を比較した。その結果、どちらの送粉者もシマクサギでより多くの花粉を運んでいた。ホウジャク類の送粉効果はシマクサギで著しく高いが、アゲハ類の送粉効果は種間で大きく違わなかった。次に、シマクサギの短い雄蕊と花弁は、自家和合性の獲得に伴う対送粉者コストが削減された結果であるとも解釈できるので、これを検証するために花蜜量・糖度をクサギと比較したが、有意な違いは見られなかった。

シマクサギの花形態はホウジャク類送粉に対してクサギよりも適応的であることが示唆された。花蜜のコストがクサギと同程度であることから、シマクサギの花形態は対送粉者コスト削減の結果ではないだろう。一方、クサギの長い雄蕊は雄性先熟による同花受粉の回避を確実にし、近交弱勢の発現を抑制することに貢献しているかもしれない。自家受粉の回避はクサギのような他殖集団において特に重要である。


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