ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-059
*角屋絵理(富山大・理),柳沢歩(富山大・理),石井博(富山大・理)
マルハナバチには、花の正面から採餌する正当訪花と花筒にあけた穴から採餌する盗蜜の二種類の採餌行動が知られており、盗蜜は植物の送粉にあまり寄与していないと言われる。これまでの研究では、「口吻の短いマルハナバチ種は花筒の長い花では盗蜜者となる」というように、マルハナバチ種と植物種の組み合わせが、採餌方法を決定する要因であることが示されている。しかし詳しく観察すると、しばしば同種のマルハナバチであっても、個体ごとに異なった採餌方法をしていることに気がつく。こうした採餌方法の違いが何に起因しているかについて調べることは、マルハナバチと植物の関係を理解するために重要である。そこで本研究では、アカツメクサで採餌しているセイヨウオオマルハナバチにおいて、採餌エリアの花あたりの平均残存蜜量、各個体の経験、個体サイズが、各個体の採餌方法にどのような影響を与えているのか調査した。主な調査は北海道東神楽町の2つのサイト(サイトA とB)で行った。
その結果、女王バチはすべての個体が正当訪花を行っていたが、働きバチではサイズが小さい(すなわち口吻が短い)個体ほど盗蜜を行う傾向があった。また、同じサイズであればサイトAの働きバチの方がサイトBの働きバチより盗蜜をする傾向が強かった。サイトAはサイトBよりも女王バチの数が多く、花あたりの残存蜜量も少ない。従って、カ-スト間の資源競争が、働きバチが正当訪花で採餌しにくい状況を作り出していると考えられた。数日間にわたる個体の追跡調査からは、各個体は採餌方法をほとんど変更しないが、正当訪花から盗蜜への変更は、その逆の変更より幾分多いことがわかった。
以上の結果から、資源競争の結果と思われる残存蜜量の地域差、各個体の経験、個体サイズの変異が、働きバチの採餌方法の違いを生み出す要因であることが示された。