ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-060
*鈴木美季,大橋一晴(筑波大・生命環境)
多くの被子植物では、花が咲いているかぎり色は一定に保たれる。しかし一方で、花が咲いてから閉じるまでのあいだに、色を大きく変化させる植物種もある。こうした「花色変化」は、どのような条件のもとで進化するのだろうか?この疑問を解く第一歩としては、同じ分類群にふくまれる植物種の中から花色が変化する「変化型」と変化しない「不変型」をえらび、両者の繁殖過程のちがいを明らかにすることが有効と考えられる。以上を念頭に、演者らは、スイカズラ科タニウツギ属の2種、ハコネウツギ(花は白から赤紫色に変化)とタニウツギ(花は桃色で一定)を対象に、繁殖過程の比較調査をおこなってきた。
現在までの研究で、花色変化の有無によらず、両種とも花齢(開花後の経過日数)にともない蜜の生産速度が変化することがわかっている。そこで今回は、両種をおとずれるポリネ-タ-が蜜生産のさかんな齢の花をえり好みする傾向をもつか?との問いに答えることを目的として、齢にともなう花弁の色、蜜生産速度、およびポリネ-タ-の訪花頻度の変化を記録し、それらの関係をしらべた。
その結果、変化型では、ポリネ-タ-の訪花頻度と蜜生産速度は正の相関関係にあり、色と報酬量のちがいにもとづく弁別学習が起こっていることが示唆された。ただし、花色変化が齢とともに徐々に進行したのにたいし、蜜生産速度と訪花頻度の変化は開花から2〜3日目における急な減少というかたちで起こった。一方、不変型では、ポリネ-タ-の訪花頻度と蜜生産速度のあいだに有意な相関関係はみられなかった。つまり色変化しないこれらの花では、齢ごとに報酬量が変わっても、弁別学習が起こらないものと考えられた。今後は、こうした訪花頻度のちがいが、両種の送受粉にもたらす帰結を明らかにする予定である。