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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-065

報酬のないラン科ナツエビネの送粉生態

*坂田ゆず 阪口翔太 山崎理正(京大 農)


無報酬花の植物は送粉を促進するために様々な擬態を進化させてきたが、最も多く見られるものは、採餌行動をする動物の知覚を活用した報酬擬態である。これには、ある特定の報酬花に似るベイツ擬態と、モデルを持たず一般的に優れた送粉者誘因シグナルを持つシステムが知られている。後者は、周囲に花が少ない時期に開花して種間競争を回避している場合と、逆に周囲の花がポリネ-タ-を誘引することでマグネット効果によって送粉が促進されている場合の2通りが考えられる。また、マグネット効果とベイツ擬態の両方を持つ送粉システムもあるが、無報酬花の送粉の促進に関する研究は少なく、その連続性は明らかでない。

ラン科エビネ属のナツエビネも無報酬花で、温帯性エビネ属がほとんど春咲きであるのに対して盛夏に薄紫色の花を咲かせる。本研究はナツエビネの送粉生態を明らかにすることを目的として、開花フェノロジ-とデジタルカメラのインタ-バル撮影を用いた訪花昆虫相や訪花頻度の調査を行い、周囲の花と訪花頻度の関係、及び色が類似した花への擬態の可能性を考察した。その結果、無報酬であるにも関わらず、多様な分類群の昆虫が訪れていることが分かった。また、ナツエビネの開花期間に周囲で咲く植物は少なかったが、最も多く訪れていたハエ目とハチ目の訪花頻度には周囲の他種の開花数が正の影響を及ぼしていた。ただし、色が類似した花とは開花期間がほとんど重複せず、ナツエビネがベイツ擬態している可能性は低いと考えられる。

ナツエビネにとって、ポリネ-タ-をめぐる他種との種間競争が少なく、マグネット効果によって送粉が効果的に促進される、最適な開花時期と周囲の他種との相対的な最適密度があるのかもしれない。以上の点から、ナツエビネは、目立つ花色で送粉者を誘因し、特定の花に擬態するよりは多くの類似した機能群の花とゆるい送粉シンドロ-ムを形成していると考えられる。


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