ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-071
*阿部航大,市野隆雄(信州大・理・生物)
送粉者がもたらす花形質への表現型淘汰については古くから研究がおこなわれ、いくつかの証拠が示されてきた。野外でこのような淘汰がはたらいているとすれば、異なる送粉者が分布する環境下において、種内で花形質がそれぞれ局所的に適応することが予想される。しかし、花形質の種内変異と送粉者の地理的変異を結びつけ、花形質の局所的な適応を実証した研究はほとんどない。
乗鞍岳ではヤマホタルブクロが広い標高域にわたって分布し、その送粉者であるマルハナバチ属の種組成が標高に沿って変化していることが知られている。このことから標高に沿って異なる送粉者へのヤマホタルブクロの局所的な適応が起こっている可能性が予想される。本研究ではこの適応の可能性を示すために、花と送粉者のサイズの対応が一訪花あたりの送粉効率に影響するかどうかを検証した。
その結果、花と送粉者の長さの対応が一訪花あたりの花粉持出し率(植物の雄性適応度)を高めることがわかった。このことから花と送粉者のサイズの対応が花の適応度に影響するということが言え、これはヤマホタルブクロの局所的な送粉者への適応の可能性を支持する。
長野・北沢(私信)の研究では、乗鞍でマルハナバチの体サイズは標高に沿って小型化し、ヤマホタルブクロの花も標高800m-1900mでは標高に沿って小型化していることが確認された。これは花形質が局所的に適応している可能性を支持する。しかし、2200m地点でのみ花が大型化しており、これは花と送粉者のサイズマッチングによる淘汰とはべつの淘汰がかかっている可能性を示唆する。
乗鞍岳における標高に沿ったヤマホタルブクロの花形質の変異が局所的なマルハナバチへの適応であることを示すには、今後、花形質の遺伝性や、訪花頻度などの送粉効率以外の送粉者を介した淘汰の可能性について調査する必要があるだろう。