ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-156
*太田民久(北海道大学・環境科学院),三宅洋(愛媛大学・工学部),日浦勉(北海道大学・苫小牧研究林)
植食者の成長量や繁殖量を規定する要因として,餌資源である生産者のC(炭素),N(窒素)およびP(リン)の比率が非常に重要とされている。生産者のC,NおよびPの比率は光条件と周辺環境の栄養塩濃度との間のバランスによって決定され,周辺環境の栄養塩濃度が一定の条件下では,生産者に含まれるCに対するNおよびPの比率が,Cの同化量が少ない弱光下に比べてCの同化量が多い強光下で減少する。つまり,光:栄養塩比の高い環境では餌資源のCN比およびCP比が上昇し,消費者の成長および繁殖が制限される可能性が高い。逆に弱光下において光合成活性が低下すると,餌資源量が低下し,同様に消費者の成長および繁殖が制限される可能性が高い。つまり,貧栄養塩環境下においては光が強すぎる場合も,弱すぎる場合も植食者の成長量および繁殖量は抑制されるということが光:栄養塩仮説によって予想されている。しかし,河川生態系において本仮説を検証し,これを支持した研究は未だ皆無である。本研究では付着藻類と植食者であるヒラマキミズマイマイ(Gyraulus chinensis)を対象に河川生態系を模した室内実験を行い,光をコントロ-ルしてやることで,光:栄養塩仮説の検証を行った。本実験系の栄養塩濃度は非常に低く維持され(無機態窒素10.4~31.2μg/L,全リン0.4~1.4μg/L),光は林冠に覆われた河川および直射日光を網羅する50~1500μmol photon s-1m-2の範囲でコントロ-ルした。その結果,中程度の光量で成長量が最大になるという光:栄養塩仮説を支持する結果が得られた。また餌資源のCP比が植食者の成長および繁殖に対する配分を変更させることも観察された。貧栄養な河川生態系において,光は生産者のCP比をコントロ-ルすることで,植食者の生活史にも影響を与えることが示唆された。