ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-160
*千賀有希子,渡辺泰徳(立正大・地球),照井滋晴(NPO・PEG),広木幹也,野原精一(国立環境研)
海水や湖水中の溶存有機物(DOM)は,地球上の炭素プ-ルとして重要であり水域のみならず地球全体の炭素動態に大きな影響を及ぼしている.またDOMは,水域生態系に特有な微生物食物連鎖の起点になっている重要な物質である.したがって,水域におけるDOMに関して多くの研究が行われてきた.特にDOMの生成機構は明らかになりつつあり,プランクトンの細胞外排出物や排泄物,植物遺体の分解によって生じる腐植物質が主なDOMの起源であることなどが解っている.一方でDOM分解については,微生物と光による分解の2つの過程があることが指摘されているものの,それらの機構は十分には解明されていない.本研究では,釧路湿原に位置する腐植湖沼赤沼を対象として,DOM分解に対する微生物および光の影響を調べた.
赤沼湖水を石英三角フラスコに入れ,人工ランプによって太陽光,紫外線A,Bの照射を行った.同時に,三角フラスコをアルミホイルで覆った暗条件も調製した.時間を追ってDOMの濃度の減少および蛍光分光光度計によってDOMの質の変化を測定した.また溶存酸素濃度の減少量から微生物によるDOM分解量を見積もるとともに,細菌を蛍光顕微鏡で観察することで形態の変化を観察し,微生物への影響を検討した.
赤沼のDOMは,微生物によっても,光によっても分解した.DOMの減少量から,太陽光および紫外線の照射が最もDOM分解を促進することが解った.しかしながら,腐植物質の分解には,紫外線のみの照射よりも太陽光の方が大きく寄与していた.また,光の条件によって優占する細菌が異なることが解った.水域のDOMは微生物食物連鎖過程を左右する重要なファクタ-である.近年,地上に到達する紫外線が増える中で,湖沼のDOM分解の研究は湖沼生態系を保全する意味から重要であると考えられる.