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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-166

大気負荷が異なる環境下における樹体での栄養塩の吸収・溶脱の比較

*今村直広,大手信人(東大・農),田中延亮(東大・演習林),小田智基,長山美由貴,鈴木雅一(東大・農)


近年,大気中の窒素酸化物濃度の上昇や大陸からの硫黄酸化物や窒素酸化物の流入により,我が国の森林生態系への硫黄沈着量,窒素沈着量は変化してきている。森林樹体への窒素酸化物,硫黄酸化物,オゾンの大気負荷量の増加は,樹体の着生植物の減少やクチクラ層の溶脱を引き起こすことが報告されており,樹体による栄養塩の吸収・溶脱量に変化を引き起こしている可能性が考えられる。本研究では,硫黄沈着量,窒素沈着量が異なる環境下における大気負荷による樹体への影響について検討するため,我が国でこれまで報告されている26ヶ所の森林における各種栄養塩の林内雨沈着量,樹幹流沈着量,林外雨沈着量デ-タを用い,樹体への沈着量と樹体による栄養塩の吸収・溶脱量を比較した。その結果,硫黄沈着量,窒素沈着量の増加に伴い,主要カチオン(K,Mg2+,Ca2+)の溶脱量が増加していることがわかった。これは,樹体でのイオン交換反応による主要カチオンの溶脱量の増加が原因と考えられる。また,硫黄沈着量,窒素沈着量の少ない樹体に比べて,それらが多い樹体では,K,Mg2+の溶脱量に対するCa2+の溶脱量の割合が増加していた。これは,大気負荷の多い地域における樹体では,樹体でのイオン交換に加え,大気負荷物質によって葉表面のエピクチクラワックスが溶解することが影響しているためと考えられる。一方,NH4,NO3?などは樹体に吸収されていることが明らかになったが,吸収量と窒素沈着量の多寡との間に明瞭な関係は無かった。このことは,樹体,特に葉面での窒素吸収量には限界があることを示唆している。


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