ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-168
*上野貴史, 太田誠一, 京都大学農学研究科
バイオ炭(Biochar)は、堆肥などの有機物資材よりも高い炭素貯留機能を持つことから、農地における温室効果ガス削減オプションのひとつとして近年注目されているが、それらが土壌中で分解されるメカニズムや、安定性の定量的な評価は十分には行われていない。また、バイオ炭の施用がN2OやCH4といった温室効果ガス発生に及ぼす影響も明らかでないため、バイオ炭による正味の温室効果ガス削減効果を定量的に評価することが困難である。
本研究では京都市の畑地圃場において、異なる4処理の土壌カラム(a.コントロ-ル(土壌のみ)、b.土壌・堆肥、c.土壌・スギ炭、d.土壌・スギ炭・堆肥)を設置し、クロ-ズドチャンバ-法によりCO2、N2O、CH4フラックスの連続観測を行った。加えて、ライシメ-タ-を用いて採取した土壌カラムからの溶脱水と、カラム中の無機態窒素の分析から、堆肥ならびに炭の添加に伴う炭素・窒素動態について検討した。
試験期間を通じてCH4の吸収フラックスが観測されたが、処理間で有意な差は見られなかった。堆肥の添加は硝酸態窒素、アンモニア態窒素を一時的に増加させ、炭の添加は硝化を促進することが認められたが、無機態窒素プ-ルおよびN2O発生量が本来小さい本試験地では、N2Oフラックスは堆肥の添加でやや促進される傾向にあったものの、処理間で有意な差は見られなかった。しかし、堆肥の添加で、土壌表面からのCO2放出量と溶脱炭素量は有意に上昇し、炭の添加はこれらに顕著な影響を及ぼさなかったことから、堆肥の分解性の高さならびに炭の難分解性が示唆された。また、堆肥の添加は硝酸の溶脱を促進したことからN2Oの間接排出に貢献する可能性が示唆された。以上より、土壌中における炭素の安定性および添加に伴う窒素負荷という二つの視点から、バイオ炭は堆肥よりも正味の温室効果ガス削減効果が著しく大きいと考えられた。