ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-172
*真坂一彦,山田健四,佐藤創,鳥田宏行,今博計(道総研 林業試験場)
北米原産のマメ科高木種ニセアカシアは,土壌中の窒素量を増やすことで侵略的外来草本が林内に繁茂し,在来種を衰退・駆逐するといわれている。しかし,これまでの研究の多くは「鶏が先か卵が先か」問題を解決していない。つまり,侵略的外来草本はニセアカシアが選好する立地を同じように選好しているだけで,ニセアカシアの出現とは関係ない可能性がある。本研究では,北海道の道央,日高,渡島の3地域においてニセアカシア人工林(32年生-94年生;25林分)とシラカンバ人工林(31年生-75年生;23林分)を調査し,下層植物種数を比較した。シラカンバを用いたのは,在来の先駆樹種でかつ窒素固定菌と共生していないためである。また,ニセアカシア人工林のいくつかは,侵略的外来種の侵入経路とされる道路沿いや開発地域付近などに位置する。それぞれの人工林で植生調査を行ったところ,ニセアカシア人工林内の総在来植物種数はシラカンバ林とほぼ同じで,外来草本種はほとんど出現しなかった(2種各1個体のみ)。ササ類の被度を考慮した一般化線形混合モデル(GLMM)によって,両人工林の下層植物の出現数を比較したところ,両者で有意な差は認められず,種数はササ類などの高茎草本によって強く影響を受けていることが明らかになった。この結果は,ニセアカシアによる窒素供給が種数にほとんど作用していないことを示唆する。また,ニセアカシア人工林内には多種・多数の在来広葉樹の侵入が確認され,林齢の増加とともに侵入広葉樹の最大dbhが大きくなり,高齢林ではニセアカシアの最大dbhを越えるものもあった(GLMM)。この結果は,先駆樹種ニセアカシアが,いずれ在来の広葉樹類に置き換わっていくことを示唆する。結論として,北海道におけるニセアカシアが外来草本の繁茂を促したり,あるいは在来植生を衰退させ駆逐しているという証拠は見つからなかった,といえる。