ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-180
*松尾歩(東北大院・農),蒔田明史(秋田県立大・生資),陶山佳久(東北大院・農)
日本の準固有種であるササ類の各種は、古くから我が国の人々の暮らしに広く利用され、文化を育んできた身近な植物である。一方で、それらの正確な種同定は専門的な知識が必要なため身近とは言えず、簡便な分類体系を検討する余地があると考えられる。しかしながら、そのために必要な地理的・形態的・遺伝的変異の包括的情報は、未だに十分ではない。
そこで本研究では、まず日本産ササ類の大局的な種間関係を明らかにするために、6属51種を対象にDNAバ-コ-ディング領域(3領域:rbcL、matK、trnH-psbA)の塩基配列を調べた。次に、種間・種内の集団間および集団内における形態的・遺伝的変異を明らかにするために、日本に広く分布するササ属のチシマザサ節・チマキザサ節・ミヤコザサ節およびスズタケ属を対象に、全国からその分布域を網羅するように各4-7の地域集団を選定し、各集団50稈ずつを対象として形態計測(分枝位置などの10項目)を行った。また、各集団8個体ずつを対象として、10領域(計約8000bp)の葉緑体DNA塩基配列を調べた。これらの調査により、日本産ササ類の地理的・形態的・遺伝的な分化の程度について検討した。
DNAバ-コ-ディング3領域の塩基配列に基づく大局的な種間比較の結果では、日本産ササ類の種間における変異は少なく、従来の形態による分類との一致は認められないことがわかった。同様に、ササ属とスズタケ属の種を対象に調査した葉緑体DNAの10領域においても、節・属ごとの明瞭な分化は認められなかった。しかしながら、各種の形態調査からは、特定の属・節間に明瞭な違いが認められた。今後は、新たに核DNAの分析を行って形態の違いとの関係を検討し、日本産ササ類の変異情報を整理する予定である。