ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-218
*桑江朝比呂(港空研),三好英一(港空研),細川真也(港空研),一見和彦(香大・瀬戸内センタ-),細谷淳(鳥類標識協会),守屋年史(バ-ドリサ-チ),石井正春(南港野鳥園)R. C. Ydenberg(SFU),R. W. Elner(CWS)
シギ・チドリ類の主食は,これまでゴカイやカニなどの底生無脊椎動物であると考えられていた.しかし,小型シギ類は高速でつつき行動を行うため,実際には餌を確認できないことが多かった.既報において,干潟堆積物表面を覆っているbiofilm(バクテリアや底生微細藻類などの微生物およびそれらが分泌する多糖類粘液で構成された薄い層)が,カナダ国の泥質干潟へ春の渡りの中継地として飛来するヒメハマシギの主食となっていることを示した.本研究では,新たな食物源としてのbiofilmがどの程度普遍的なのかを解明するため,7カ所の干潟において3種の小型シギ類(Calidris属のハマシギ・ヒメハマシギ・トウネン)の春秋の渡り期ならびに越冬期における食性について,熱量収支と安定同位体比解析により検討した.また,28種のチドリ目の鳥類を一時捕獲し,舌を写真撮影して形態を観察した.
体重150 g程度までのシギ・チドリ類16種すべての舌先には,biofilmを絡め取る採食様式に適した形態と考えられる明瞭な棘構造がみられた.大型シギ類・ジシギ類・カモメ類にはそのような棘構造はみられなかった.小型シギ類の食物源のうちbiofilmが占める割合は,干潟堆積物表面のバイオフィルム密度に依存していた.すなわち,砂質干潟に比べてbiofilmが濃密な泥質干潟では,小型シギ類は食物源の多くをbiofilmに頼っていることが,安定同位体解析と熱量収支の両方の結果から得られた(泥質干潟:43?67%,砂質干潟:1?24%).世界中で減少しつつあるシギ類の個体数の回復には,バイオフィルムを育む泥質干潟の保全が重要なのかもしれない.