ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-220
中田兼介(東京経済大)
動物の体色は他個体からの見つかりやすさに影響する。そして、視覚に依存する他種との種間関係は、頻度依存選択または異なる選択圧のトレ-ドオフを介して体色変異を維持するメカニズムの一つとなると考えられる。
円網姓クモでは目立つ体色を示す種がしばしば見られるが、このような目立つ体色に餌誘因機能がある事が近年示されてきた。一方、体色に大きな個体間変異が見られる種もあり、体色を用いた餌誘因が円網性クモにおける体色変異の維持に関与している事が予想される。そこで、銀地に黒い斑紋が混じった背面を持ち、黒色部の全背面に対する比率が20%-100%と大きく変異するギンメッキゴミグモ(Cyclosa argenteoalba)を用いて、黒色部の比率と捕食頻度の関係を調べたところ、人間の目には目立たない黒色部が大きい個体ほど多くの餌を捕えるという、先行研究とは逆の結果を得た。一方、造網場所における太陽光の直射時間を測定したところ、黒色比率の高い個体は日当たりがほとんどない場所でしか造網していなかったが、黒色比率の低い個体は様々な日当たりの場所で造網していることがわかった。また本種を直射日光に曝し体温を測定したところ、黒色比率が高いほど体温も高いという結果を得た。この事から、本種の体色変異が、餌捕獲と熱ストレスを避けるための造網場所の制約という二つの選択圧によって維持されている可能性が考えられる。また、5月から8月及び10月に黒色比率の頻度分布を調べたところ、その最頻値は5月から7月にかけて上昇し、8月及び10月にかけて低下した。本種は4月から11月まで出現し、年二ないし三化性であると考えられていることから、このような黒色個体頻度の変化は両選択圧の相対的重要性が季節によって変化する事を示しているのかもしれない。