ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-224
*鶴井香織(弘前大・男女共同参画), 本間淳(総研大・先導研), 若宮慧(京大院農・昆虫生態), 姫野孝彰(京大農・昆虫生態), 西田隆義(滋賀県大・環境生態)
自切とは、被食者が捕食者に襲撃された際に自ら体の一部を切り離す捕食回避行動である。自切は直翅類をはじめ、幅広い分類群で進化している。自切には命が助かるという短期的な利益がある一方で、運動能力や繁殖成功の低下などのコストを伴う。そのため、自切せずに助かる状況では自切しないほうが有利である。爬虫類と直翅類では、体サイズの大きい種ほど捕食者に対して屈強であるため自切しにくいとされている (Arnold 1988, Bateman & Fleming 2008)。
コバネイナゴは個体群間及び個体群内において体サイズに大きな変異がみられる。自切しやすさが体サイズそのものに依存するのであれば、由来個体群に関わらず大きいイナゴほど自切しにくいはずである。本研究では、2つの個体群から採集したコバネイナゴの自切しやすさについて、体サイズ及び個体群の影響を検討した。自切のしやすさは、後脚のヒザをピンチクリップで挟んでから自切に至るまでの時間により定量化した。
メスでは、1本目自切(健全個体における自切)、2本目自切(片足自切個体における自切)ともに個体群によって自切しやすさが異なった。体サイズの影響は2本目自切のみで検出されたが、従来の見解とは異なり体サイズが小さいメスほど自切しにくかった。オスでは、個体群による違いは2本目自切のみで検出された。しかし、体サイズの影響は1本目・2本目ともに検出されなかった。
全体として、雌雄ともに個体群間で自切しやすさが異なった。しかし、それは体サイズによるものではなく、個体群ごとに異なる何らかの選択圧により進化した可能性が示唆された。本研究で用いた2つの個体群間では鳥類捕食者相が異なったことから、自切のしやすさは重要な捕食者の違いによるものである可能性が考えられた。